私はタマネギ大好き人間です。世の中にはなぜか嫌いという子どもがいて母親を困らせたりしますが、原因がよくわかりません。
もにゃっとした舌触り、ちょっと変わった甘み、調理前の刺激臭などを挙げるようですが、大好き人間にとっては、同じことがタマネギのおいしさにつながっているんですから食べ物の好き嫌いって不思議ですね。私は男の兄弟2人育ちですが、兄が大嫌いで、私は大好きでした。遺伝とは全く関係がないようです。
タマネギって本当に古くから人間が親しんできた野菜で、古代エジプトでピラミッド建設などに雇われた労働者たちに国が給料代わりに支給したという記録もあるそうです。でも、日本に入って来たのは明治の初めだそうですから、伝統的食感からなじめなかった人もいたのでしょう。そうした社会的記憶って案外、根強いのです。
原産地には諸説あるようですが、その一つがイランです。この国に短期間滞在していて、驚いたのはイラン人が日常的に生タマネギをかじることでした。私は代表的なイラン料理、チェロ・カバブにはまったのですが、シンプルなのに食材の奏でるハーモニーがすばらしい。
チェロ・カバブのカバブはご存じ焼き肉で、チェロはペルシャ語でコメのことですから、つまりイラン風焼き肉ライスのことです。イランのカバブはもちろん羊肉で、ミンチして板状や棒状に焼き上がっています。この焼き方がスパイスの違いなど一種の秘伝になっていて店や家庭ごとの味がさまざまなのです。さらさらしたイラン米のご飯を大きな皿に盛り付け、その上にバターの塊が載っています。バターが溶けたらご飯に混ぜ、添えられた焼きトマトをつぶしてご飯に混ぜます。飲み物はイラン特有の羊のヨーグルト・ドリンク、「ドゥーク」で、ちょっと酸っぱい味がとてもさわやかです。羊のミンチ肉、バターライス、焼きトマト、ドゥークの取り合わせが「これっきゃない」と思うほど絶品なのです。
イランでは、チェロ・カバブに生のタマネギが皮を剥いただけで、まるごと一つくっついていました。そのままかじったり、ちぎってご飯と一緒に食べるのですが、そのサクサク感とピリッとした味が応えられない。最初は「えっ、ナマかよ」なんて思ったんですが、狎れると、オニオンサラダと同じでおいしいんです。日本ならスライスしてカツオブシを振りかけ、ポン酢で浸すんでしょうが、イラン人はそんな、めんどくさいことは考えない。作家、椎名誠さんは大のタマネギ党で、キャンプ最高の食材と誉めそやし、その理由の一つに水を使わなくても調理できることを挙げていますがまさにその通り。イランは砂漠の国ですから水が貴重なのです。タマネギは水を使わずに生でかぶりついて当たり前なんですね。
タマネギほどおいしいモノと、かさかさして味の無いモノが分かれる野菜は少ないような気がします。アンチ・タマネギ党の人は実はおいしいタマネギを食べたことがないんじゃないかな。数年前、上沼恵美子さんが郷里、淡路島のタマネギを紹介したら、すっかり有名になってしまったけど、恵美子さんの大風呂敷のおかげでタマネギのおいしさを知った人も多いのでしょう。
淡路島は北海道に次ぐタマネギの大産地で、全国の生産量の約9%を占めています。春タマネギの「七宝早生」は大ぶりで、柔らかさと甘さは天下一品です。
最後に一つだけ大切なご注意。ペットを飼っている方々は絶対にタマネギの入った料理をペットに相伴させないでください。イヌ、ネコ、ウサギにとってタマネギは血液に作用する毒性を持っていて、最悪の場合、死亡します。ただし人間には免疫性があるので大丈夫なんですって。ナゾですね。
(水藤眞樹太) |